クラウド化する世界
本書は The Big Switch: Rewiring the World, from Edison to Google の邦訳である。約 300 ページあるが、文章はとても読みやすく平易な言葉で書かれている。
本書は 2 部構成になっており、第 1 部では発電所がそれまでの産業の状況を変え、以下に「ユーティリティ」になっていったのかが述べられている。それと対比して、クラウドも同じ状況になるのではないかと指摘している。
過去、工場などで電力を利用するためには、自前の発電機を持つ必要があった。そのために工場は川沿いに建てられ水車で発電機を回して電力を得ていた。
その後、蒸気機関タービン発電機が開発されると、その効率性から、水車ではなく石炭による発電が主流となり、発電の効率化がなされ始めた。各地で分散して発電するよりも巨大な発電所を作り一箇所で発電して、それを送電した方が安価になった。
企業によっては、その企業の根幹をなす電力を外部に委託するのは、万が一、送電が停止した場合に操業が停止してしまうとしてなかなか発電所を利用しなかったのだが、利用する企業が増加するに従い、電力が非常に安価になっていったため、自前で発電機を管理するコストが割高になっていき、最終的には発電所を利用するようになっていく。
この発電所と電力網、企業の関係は、グリッドコンピュータにもそのまま当てはまるのではないかと言うのが著者の主張。
私は Amazon EC2 や Google App Engine を利用したことがあるのだが、確かに便利であり、一度それに慣れると、自分でサーバーを構築するのはだんだんと割に合わなくなってくると感じた。 2009年05月時点では、まだ、Amazon EC2 の値段はまだ少し高いと思うが、その値段は年が経つほどに安価になっていくだろう。
第 2 部では、そんなクラウドの環境が社会に与える影響を考察している。簡単に言えば、「良い部分もあるけれど悪い部分も多分にありそうだね」 ということ。例えば、貧富の差が広がり、富は個人に集中する傾向が強まるのではないかと推測している。また、高度な統計的知識を利用することで、匿名の情報から個人を特定できるようになっていくだろうとも述べている。この主張は その数学が戦略を決める と類するものだ。
クラウドを単に賞賛しているだけでなく負の影響面についての考察をしっかりしているし、巻末には膨大な出典もあり、クラウドについてさらっと読みたい方はお薦めの本である。
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