地球移動作戦
本書は、 神は沈黙せず〈上〉 (角川文庫) 、 アイの物語 (角川文庫) の著者、山本弘氏の長編SF小説。山本氏のホームページにも作者による解説がある。それによると、本書の元ネタは妖星ゴラスというSF映画のようだ。小野不由美氏の 屍鬼〈1〉 (新潮文庫) がスティーヴン・キングの『 呪われた町(上) (集英社文庫) 』へのオマージュであるのと同じような関係だろう。
本書のストーリーはタイトル通り、地球を移動しようとする作戦にまつわるお話。謎の新天体を観測したら、将来的に地球とニアミスすることがわかった。予想される大惨事を最小限の被害で食い止めるには地球を動かすしかない!
天文学的な要素だけでなく、AR(拡張現実感)、ロボットと人との共存、抗老化措置、人格をコンピュータに移植するみたいな案、など面白そうなトピックも出てくる。もっとも、AR以外は過去の著作にたくさん出てきているトピックではある。
初出はSFマガジン2008年7月号~2009年9月号。このころは、ARToolKit とPCに接続したカメラを使ったデモが公開されたり、ARを題材にした 電脳コイル というアニメ・小説が発表されるなど、ARが流行った時期。計算機の性能が高くなったのとカメラが安価になったのでいろいろ遊べるようになったからね。その技術の系譜が、セカイカメラにつながるんでしょう。
作中には山本氏の著作のキャラクターが趣を変えて登場しているので、著作を読んだ人も楽しめるかもしれない。
ところで、ここまでレビューを書いた割には感想が無いので、追加しておく。SF小説やAR、山本氏の著作が好きなら楽しめる。私としてはとても面白く、さくさく読み進められた。「わくわく感がある」作品だと思う。
ただ、環境に与える負荷の殆ど無い永久機関を手に入れた人類の繁栄としては、ちょっと小粒な感じがする。もっとも、謳歌的な感じだとあまり面白くないので、これはこれで良いのかもしれない。
※本ブログの アイの物語のレビューは アイの物語 にあります。
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